#07 いかに内面化しないか。/『おかえりモネ』とBUMP OF CHICKEN

大学生のまひる(真昼の深夜) が日常的に考えていることや悩んでいることを、映画や本、音楽などからヒントを得ながら”現在地”として残してゆく不定期連載『よどむ現在地 』。第7回は、2021年5月から放送していたNHK朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』を3話まで見た時点と感動したことを言葉にしてみました。


目次

『おかえりモネ』と新自由主義


 新自由主義の「何者かにならなければならない」「何かを成し遂げなければならない」という半ば強迫的な成果主義・スペック主義のようなものから生まれる苦悩は、多くの人が感じていることだと思う。

 このドラマの主人公であるモネも例外なくこの壁に直面している。人生の明確な目的がない。いや、仕事の明確な目的がない。もはや人生=仕事という考え方さえも不安定になってきている。


 第3話で、自分のアイデンティティの不安定さによる不安と焦燥感に苛まれるモネに対して、夏木マリ演じるサヤカは自分の人生経験から一定の答えを示す。

 「役に立たなくて良い」

 呪いを解放する言葉として十分に強力なんだけれど、「これは数十年かけて導き出した答えだから、今から頑張らなきゃいけないモネに言っても仕方がないんだけどね」と続ける。
道は一本しかないと思っていたけれど、本当は無数にあるんだということを教えてくれる。
 一旦、そこまで連れて行ってくれたうえで「さぁどうする?」という問いかけが、まさにここ数ヶ月で自分の中に起こった意識の転換にオーバーラップした。


『おかえりモネ』とBUMP OF CHICKEN



 この点において、「おかえりモネ」は主題歌のBUMP OF CHICKENとの親和性が高い。
これまでの曲も「なないろ」も、根底には「あなたはあなたで良い」がある。


 BUMP OF CHICKENの音楽は聴く人々を全肯定してくれる。
 この「肯定」は一体何なのか。
「あなたはあなたのままで良い」とは一体どういうことなのか。「自分は自分で良い」ということを今まで理解も実感できなかった。

 しかし、今、現在進行形でわかり始めているような気がする。


「自分は自分で良い」=「世界の,社会の価値観と自分の価値観を同一化しなくていいということ」

 だと今は認識している。


 今、上の文章を書いて初めて「
メンタルヘルスの問題は社会の歪みを内面化してしまったことによって引き起こされる 」という言葉を理解することができた。


 このことも含めた「価値観の変化と生きやすさ」については、最近ずっと考えていたけれど、それを包括してくれるような強力な作品がしばらく見つからなかった。しかし、『おかえりモネ』がその役割を担ってくれそうだし、このドラマを軸に考えていけばもう少し先まで考えを進められるんじゃないかとわくわくしている。

 何かを成し遂げる圧倒的主人公ではなく、何かを成し遂げるわけではないありふれた人に焦点が当たる。


 そして、モネはこのドラマの主人公ではあるものの「この世界」の主人公ではない。特に今は、すでに出来上がっている大人のコミュニティの中に一人放り込まれ、浮いているという状態だ。この手法もまた、モネが何かを成し遂げる圧倒的な主人公ではないことを示唆しているのかもしれない。


 ありふれた人なんだけど、ありふれていない。
 「ありふれた」で終わらせない。

 その選択肢を敗北にしない。

 第3話まで見て、このドラマをリアルタイムで見ることができる幸せをすでに噛み締めている。



(おわり)

※2021年5月19日に書いた文章を加筆編集したものです。

参考資料

真昼の深夜(まひる)

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